カモのネギには毒がある』12巻75話に学ぶ「トンネリング」の罠|管理栄養士が解説する”忙しさ”が引き起こす栄養バランスの乱れ

「忙しくて、食事どころじゃない」——そんな時期が続いて、気づけばコンビニ食や欠食が当たり前になっていた経験はありませんか。

実はこれ、意志が弱いからではなく「トンネリング」という、人間の脳に備わった心理的な仕組みが働いているだけかもしれません。 今回は、経済学漫画『カモのネギには毒がある』12巻75話が描く「トンネリング」を入り口に、管理栄養士の視点から、忙しさが栄養バランスを崩していくメカニズムと、その対策を解き明かします。

この記事の要点(まとめ)

  • トンネリングとは:時間やお金、心の余裕(スラック)が不足すると、目の前の問題にしか意識が向かなくなり、視野が狭くなる心理状態のこと
  • 忙しさが引き起こす罠:仕事や育児で余裕がないと脳のリソースが目先のタスクに奪われ、「栄養バランス」のような重要だが緊急ではないことが後回しにされやすい
  • 隠された都合の悪い真実:トンネリングは意志の弱さではなく誰にでも起こる脳の自然な反応であり、気合いや根性だけでは解決しない
  • 対策:「考えなくても栄養が摂れる」仕組みをあらかじめ作っておくことで、心の余裕がない時期でも食生活の乱れを最小限にできる

あらすじ:『カモのネギには毒がある』12巻75話のテーマ

日常に潜む経済の罠を痛快に暴く漫画『カモのネギには毒がある 加茂教授の人間経済学講義』。その12巻75話では、トンネリングという行動経済学の重要な概念が登場します。

トンネリングとは、行動経済学者センディル・ムッライナタンとエルダー・シャフィールが著書『いつも「時間がない」あなたに』(原題:Scarcity)で提唱した概念で、欠乏(スカーシティ)の状態にある人は、目の前の差し迫った問題にトンネルの中を進むように意識を集中させ、それ以外の重要なことが視界に入らなくなる、という心理現象のことです。

これは単なる性格や意志の弱さの問題ではなく、時間やお金が不足すると誰にでも起こりうる、脳の自然な反応であることが研究でわかっています。

豆知識:ムッライナタンとシャフィールの研究では、インドの砂糖キビ農家を対象に、収穫前(お金が乏しい時期)と収穫後(お金にゆとりがある時期)で同じ人の認知機能テストを行ったところ、収穫前は知能指数にして約13〜14ポイントも成績が低下したという結果が報告されています。「余裕のなさ」は、一時的に人の判断力そのものを低下させてしまうのです。

作中で加茂教授が鮮やかに解き明かしていくこの構造、実は私たちの身近にある忙しい毎日の食生活にもそっくりそのまま当てはまるのです。

どんな構造が描かれているか気になる方は、ぜひ漫画を読んでみてください!
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管理栄養士視点で見る「トンネリング」と食生活の乱れ

毎日仕事や家事、育児に追われていると、「今日の締め切り」「明日の準備」といった目先のタスクで頭がいっぱいになり、食事について考える余裕がなくなっていきます。しかし、管理栄養士の視点から見ると、これはまさにトンネリングが引き起こす典型的な状態です。

1. 忙しさが「食事の優先順位」を狂わせる

トンネリング状態にあると、脳のリソースは目の前の問題の処理に集中的に使われます。その結果、「栄養バランスの良い食事を選ぶ」「食材を買って調理する」といった、重要だが締め切りのないタスクは、意識にすら上らなくなってしまいます。

「時間がないから、とりあえずコンビニのおにぎりで済ませよう」

「考えるのが面倒だから、いつもの菓子パンでいいや」

これらは、意志が弱いからではなく、トンネリングによって視野が狭くなった結果、選択肢を吟味する余裕そのものが失われている状態なのです。

2. 専門家が知っている「都合の悪い真実」

見落とされがちな事実。それは「頑張って気をつけよう」という精神論だけでは、トンネリングは解決しないということです。

トンネル状態にある脳は、目先の問題以外の情報処理能力そのものが一時的に低下しています。忙しい時期に「今度こそ栄養に気をつけよう」と決意しても、その決意を実行に移す余裕(スラック)がなければ、結局は元の行動に戻ってしまいます。

つまり、根性や意志の力に頼る対策は、トンネリングの構造上うまくいきにくいのです。

3. 「頑張らなくても整う」仕組みをつくるという発想へ

行動経済学の視点に立つと、有効な対策はトンネルの外に出ようと頑張ることではなく、トンネルの中にいても自然と正しい選択にたどり着ける仕組みをあらかじめ用意しておくことです。

たとえば、栄養バランスの取れた食事を作り置きしておく、選択肢を絞ったシンプルな献立をルーティン化しておく、といった工夫は、忙しい自分の代わりに”考える”作業を先取りしてくれます。

余裕がある時にこそ、余裕がない自分のための仕組みを整えておく——それが、トンネリングに振り回されないための最も現実的な対策なのです。

今日からできる!トンネリングに振り回されないための3つのチェックリスト

ここまでの内容を、今日から実践できる3つの行動に落とし込みます。

  • 「時間がない」が続いたら、まず食生活が乱れやすい時期だと自覚する
    → 意志の問題ではなく、脳の状態の問題だと知ることが第一歩です
  • “考えずに”栄養が摂れる仕組みを、余裕のあるうちに用意しておく
    → 作り置き、簡単な栄養補助、定番献立のルーティン化など
  • 「完璧」ではなく「最低限」の基準をあらかじめ決めておく
    → トンネル状態でも判断に迷わない選択肢を減らしておく

まとめ:トンネリングに気づき、振り回されないために

『カモのネギには毒がある』の加茂教授が言うように、人間の心理的な仕組みを知らなければ、私たちは意図せず不利な状況に陥ってしまいます。

「最近、食事がおろそかになっているな」と感じたら、「自分の意志が弱いから」ではなく、「今、心や時間の余裕が不足しているサインかもしれない」と捉えてみてください。

忙しさによるトンネリングに打ち勝つ最大の武器は、気合いや根性ではなく余裕があるうちに仕組みを整えておくこと正しい栄養リテラシーです。自分を責めるのではなく、エビデンス(科学的根拠)に基づいた仕組みづくりで、無理なく栄養バランスを保っていきましょう!

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